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#01

2021.11.09

松山英樹がマスターズ優勝を境に変わったことと、変わらないこと。

Text by Sonoko Funakoshi 舩越園子

2021年マスターズを制覇して以来、ツイッターで松山英樹にまつわるコトが呟かれる頻度が格段に上がっている。松山といえば、マスターズで優勝する以前から誰もが認める日本ゴルフ界のエースだったのだが、なぜ、マスターズ優勝を境に彼に関するツイートが急増したのだろうか。

松山がマスターズで日本人初優勝を果たした2021年4月12日には、松山に関する日本語と英語のつぶやきが合わせて30万7769件も見られた。これは松山に関して過去最多の投稿数で、2番目は東京五輪男子ゴルフ最終日の2021年8月1日、3万7574件だった。(※1)松山のマスターズ優勝には、タイガー・ウッズも祝福の投稿を寄せた。海外の投稿は7割を北米が占めたが、一方で英国のグループ「ワン・ダイレクション」のナイル・ホーランも反応している。(by NTTデータ「なずきのおと」

そもそも松山には、日本でもアメリカでも「真面目」「ストイック」「完璧主義」といった修飾語が付されることが多い。

ゴルフに対する彼の姿勢は、きわめて真面目。自身に対する彼の姿勢は、常に厳しく、高い理想を追い求める――そういう松山像を抱いていた人は少なくなかったのだと思う。

実際、松山が真面目でストイックであることを物語るエピソードは、昔から多々あった。たとえば、松山の恩師である東北福祉大学ゴルフ部の阿部靖彦監督は「ヒデキは海外でも絶対に観光しない」と明かしてくれた。大学生のアマチュアの時代から、松山は常に観光より練習やトレーニングを優先し、観光スポットの見学は「僕はいいです」と言って、避けてきたそうだ。

しかし、そんな松山にも、実を言えば、お茶目な一面がある。2013年から米ツアーに挑み始めた彼は、あるとき、試合が開かれていた土地の象徴的な建物の絵柄がデザインされた派手なスマホケースを、嬉しそうに取り出して見せてくれたことがあった。

「どう、これ。いいでしょ?」

米ツアー転戦中の夕食は、その土地その土地で日本食レストランに出かけることが多い。だが、松山は渡米して間もなかったころから、全米でチェーン展開されている安価な庶民のレストランにもしばしば出向き、アメリカらしいパンケーキやハンバーガーに挑んだりもしていた。

公の場では、なかなか英語を話さない松山だが、そうしたアメリカンなレストランに行ったときは「ヒデキが自分から進んで英語で注文する練習をしています」と話してくれたのは通訳兼マネージャーのボブ・ターナー氏。そのかいあって松山の英語力はみるみる向上。試合中、ルール委員とのやり取りは、すぐに松山自身が自力で行なうようになった。

気取らず、気さく。順応性も柔軟性もある。チャレンジ精神も旺盛で、遊び心も持ち合わせている。だが、そういう松山の人間性は、以前はあまり知られることがなく、どちらかと言えば、とっつきにくいイメージが前面に出ていた。

松山自身、肩肘張っていたのかもしれないし、必死だったからこそ余裕もなく、だから鉄仮面を被ったような松山像が独り歩きしていたのだと今は思う。

しかし、2021年マスターズで日本人初、アジア人初の覇者に輝いたあの瞬間から、松山の素顔が少しだけ、人々の目に触れるようになった。

マスターズ優勝後、胸の内を明かすようになった。

表彰式でグリーンジャケットを羽織った松山は、両腕を勢いよく上げ、満面の笑顔で「サンキュー! サンキュー!」と叫んだ。あんな万歳ポーズを取る松山を見たことは、それまで一度もなかった。「サンキュー!」を連呼した松山を見たのも初めてだった。

そうやって手離しで喜びを露わにした松山を見て、「案外、可愛いところもあるんだね」と意外に感じた人は少なくなかったのではないだろうか。

以前は決して語ることがなかった手の内、胸の内も、優勝後は少しだけ明かすようになった。初めてスイングコーチを付けたことに対しても、松山は反省や手ごたえを素直に謙虚に語った。

「(以前は)自分ひとりで、何がダメだとか、フィーリングだけでやっていた。自分が正しいと思い過ぎていた。コーチを付けて、今は客観的な目をもってもらいながら正しい方向に進んでいる」

頑固なまでに「自分だけ」を貫いてきた松山にも弱さや苦悩があったこと、コーチという伴侶を得て安堵していることが分かる言葉だった。

早藤将太キャディが18番グリーン上でコースに向かって一礼をしたことが欧米ゴルフ界で大きな話題になり、ターナー氏を含めた「チーム松山」の存在にもスポットライトが当てられた。チームの面々と松山の関係性が次々に報じられたことで、これまであまり見えなかった松山の人間味を窺い知ることができるようになった。

松山に関するつぶやきには「チーム」「キャディ」といった言葉が含まれる投稿が日本で4万4833件、海外でも2万6456件と多かった。割合を見ると日本語では「マスターズ」「#gohideki」が相対的に多かったが、海外のツイートは「キャディ」「グリーンジャケット」が多く占めた。(※2)特に早藤将太キャディの行動については、日本以上に海外で盛り上がりを見せた。(by NTTデータ「なずきのおと」

その結果、これまでは遠い存在だった「松山ワールド」が少しばかり近くに感じられ、彼に親近感を覚えるファンが増えたのだと私は思う。

どんなに急いでいるときでも少年、少女に歩み寄る。

とはいえ、松山像がどう変化したとしても彼の根本が変わることはない。とりわけ、昔から彼が気弱そうな少年少女に注いでいた優しい視線は、彼がプロゴルファーである限り、変わることはないだろう。

試合会場でサインを待つファンの列の中に少年少女の姿があると、松山はどんなに急いでいるときでも必ず歩み寄る。

プロ転向して間もなかったころの全英オープン会場では、祖父とおぼしき男性に連れられたとてもシャイな様子の現地の幼い少年が、小道の対岸から恥ずかしそうに「ヒデキ~!」と呼びかけると、松山は自ら道を走って横切り、サインしたボールを手渡していた。

大観衆が詰め寄せる米ツアーのフェニックス・オープンのプロアマ戦の喧騒の中、消え入りそうな弱々しい声で「マツヤマ~」と呼び続けたアメリカ人の幼い少女の声を、松山は数メートル先から見事にキャッチ。少女に歩み寄り、サインして握手して、記念撮影にも応じていた。その様子を微笑みながら見守っていた周囲のギャラリーから大きな拍手が沸き起こると、松山も嬉しそうに笑った。

そんな彼の人間としての本来の優しさや松山らしさが、これからもっと人々に知られ、SNSで話題になれば、トッププレーヤーとして上へ上へと昇っていく松山が、その一方で、どんどん身近になる。実際に10月21日から24日まで開催され、日本凱旋優勝を果たしたZOZOチャンピオンシップでは、ゴルフウェアではないカジュアルな装いの女性が松山を応援する姿がよく見られた。

そんな「みんなのスター」に、松山は、すでになりつつある。

マスターズ優勝の前に松山について発言したユーザー3万5184人のうち、プロフィールに「ゴルフ」「golf」と記載のあったユーザーは2595人(7.4%)だったが、優勝後に松山について発言した22万6446人のうち、プロフィールに「ゴルフ」「golf」と記載のあったユーザーは8066人(3.6%)だった。これまでゴルフに関心がなかった層も、松山の優勝をきっかけに関心を持ったことが窺える。また、ZOZOチャンピオンシップでは、松山に関する投稿が2万4932件あった。(※3)(by NTTデータ「なずきのおと」

※1 ※2
分析期間:日本語2011年1月~2021年8月、英語2020年9月~2021年8月
分析対象:「松山英樹」「松山選手」「gohideki」「matsuyama AND hideki」「hideki AND golf」のいずれかを含むツイート。
※3
分析期間:日本語、英語2021年10月21日~2021年10月24日
分析対象:上記と同様