HIDEKI MATSUYAMA Sponsored byNTT DATA
Column
デバイスを縦向きにしてご覧ください。

#07

2023.7.14

プロキャディーの世界

 見上げた空を不規則に舞う風。鉛色の雲からは冷たい雨が落ちてきた。ゴルフコースに張り巡らされた繊細な数々の罠は、予測のできない自然条件によってその脅威をたちまち膨らませる。

懸命にプレーを続けながら、ふと目をやったリーダーボードからは他選手たちが軽快にスコアを伸ばす様子が見て取れた。姿の見えないライバルたちに煽られた不安が、時間の経過とともに大きくなっていく。

 ゴルフというスポーツの魅力であり、難しさでもある要素のひとつが、不確実性に満ちた環境下での判断と責任がプレーヤー一人ひとりに覆いかぶさることである。勝敗を左右する一打に至るクラブやショット、ターゲットの選択に関わる決断はそれぞれのゴルファーが行わなければならない。

 ただ唯一、孤独な闘いに果敢に挑むゴルファーをプレー中に支えられる存在がいる。長い歳月をかけてつくられ、今も改訂を続けているゴルフ規則は長らく、以下を定めている。

ゴルフ規則10.2a アドバイス
ラウンド中、プレーヤーは次のことをしてはならない
・競技に参加していてコースでプレーしている人にアドバイスを与えること。
・プレーヤーのキャディー以外の人にアドバイスを求めること。

ゴルファーがコースを回るあいだ、アドバイスを求めることができるのは、自身のキャディーをおいて他にいない。

 ゴルフ場に勤務する、いわゆるハウスキャディーにバッグを預ける一般的なアマチュアゴルファーとは違い、ツアーを巡るプロゴルファーは、同じようにトーナメント現場を職場にするプロのキャディーとタッグを組む選手がほとんど。彼らはプレーヤーの精神的な支えでもあり、コースの攻略ルートを練り上げるプロである。

 世界最高峰のプロゴルフツアー、PGAツアーで10年に及ぶ奮闘を続けてきた松山英樹は、これまでのキャリアで2人の“専属”キャディーを起用してきた。一人目は明徳義塾中・高、東北福祉大学の先輩にもあたる進藤大典氏。その後2019年からは同じく中高、大学の後輩である早藤将太氏(以下、敬称略)と海の向こうを飛び回り、2021年にマスターズを制覇した。

 松山自身、ゴルファーにとって「キャディーの力は大きい」と語る。例えばグリーン上でパッティングのラインを読む際にも「2つの目で見るよりも、4つの目で見る方が良いに決まっている」と彼らの力も拠り所にしてきた。要求されたクラブをプレーヤーに手渡し、泥や芝がついたヘッドを拭き、傘を差し出すだけではプロキャディーの仕事は務まらない。プレー中のゴルファーに寄り添う伴走者であることは最低限の任務で、それ以上の仕事が彼らの優劣を決めている。

 勝負を決める一打を前にして、コース上で松山が早藤キャディーから得る情報は多岐にわたる。ピンフラッグまでの距離、グリーンを取り囲むエッジ、ペナルティーエリアまでの距離、グリーンの形状に傾斜、そして風向きにカップへのライン…。周辺状況を総合的に勘案して、ボールをどこに打ち出し、どこに落とせばカップに近づくか、というコース攻略の術をともに探る。

 では、緊張感あふれる場面でプレーヤーが必要とする情報を得るために、プロのキャディーは日常的にどう動くか。実際には、選手と一緒にコースを練り歩く時間以外に行う準備こそが彼らにとっては重要である。

毎週木曜日が大会初日にあたるプロゴルフトーナメントにおいては、それまでの準備期間、つまり月曜日から水曜日までの3日間の動きがキャディーにとってはものを言う。早藤キャディーは松山が事前の練習ラウンドを行う前に会場を訪れ、いち早く18ホールのチェックに取り掛かる。各ホールの詳細が描かれたメモとペンを手にひとりフェアウェイを歩き、距離やグリーンの傾斜、コースの状態を丹念に調べる姿が日々そこにある。

 トーナメントの4日間の闘いは短いようで、72ホールに至る道のりは長く険しい。プレーヤーが世界のトップレベルであり続けるためには、信頼のおけるプロフェッショナルのキャディー、中長期的な戦略を組み立てるコンサルタントのような存在が欠かせない。喫緊の課題に対処するだけでなく、一歩先の戦略的なルートを提案し、カップインまでの、ひいてはホールアウトまでの最良の道筋を描く。

洗練されたプロキャディーとプロゴルファーとの間の絆は、まさに松山が2021年から契約するNTTデータとクライアントの関係性を思い起こさせる。同社は設立以後、社会環境の変容をつぶさに捉え、顧客の潜在的なニーズを鮮明にしながら進むべき道を示してきた。

先行き不透明な時代を示すVUCA(Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性、Ambiguity/曖昧性)のフレーズは近年、未知のウイルスの蔓延や、既存の仕組みを覆すデジタル技術の革新的発展により、その印象を多くの人や社会で強めている。いっそうの先進性が求められるビジネスの世界でも、天候等の不確実性に対応してゴルファーを支える一流キャディーのような、先見性と牽引力を備えたパートナーがいてこそ顧客は力を発揮できる。

変わりゆく社会が求める姿と顧客の未来とをマッチさせる、敏感なアンテナと鋭い視点による解決力。頼もしいコンサルタントと同様、プロのキャディーにとっても、新鮮な情報の収集能力はその存在価値を決める。早藤キャディーは試合前のコースチェック中、ともにPGAツアーで戦ってきた他選手のキャディーとの会話を通じて、攻略のヒントを得ることも少なくない。グリーンの形状やその日のピンポジションに適した攻め方があり、稀なケースではあるが、第1打を意図的に隣ホールのフェアウェイに打ち込み、2打目でグリーンを狙いやすいアングルを示す奇想天外なアイデアを松山とシェアすることもある。

中堅からベテランの域に差し掛かり、肉体的なコンディション調整に多く時間を割くようになった松山はコース攻略の戦略を練る部分において、長らく寝食を共にし、互いをよく知る早藤キャディーの力を頼りにする機会が増えた。もちろんプレーヤーが対峙するゴルフコースの難度が高ければ高くなるほど、そして信頼関係が深まれば深まるほど、キャディーのアドバイスにかかる責任も大きくなる。

プロゴルファーにとって長く厳しい72ホールの闘いを支えるプロキャディー、来るべき社会の輪郭を描き、顧客の成長領域をともに探るNTTデータはどちらも、努力を惜しむことなく高みを見据えている。