HIDEKI MATSUYAMA Sponsored byNTT DATA
Column
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#09

2024.3.27

2年ぶりの復活優勝
その時、松山英樹を支える
“チーム”は

 春の祭典の足音が、少しずつ大きくなる。蕾の膨らみがいまにも開きそうな季節。世界のゴルフ界は4月、マスターズがメジャーシーズンの訪れを告げる。

 1934年、伝説的なアマチュアゴルファー、ボビー・ジョーンズの声から始まったマスターズは、米国南部ジョージア州オーガスタに各時代の名選手たちを招き入れ、唯一無二の歴史を彩ってきた。

 アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤーのビッグ3の栄光、タイガー・ウッズ伝説の始まり。そして2021年、アジア出身選手として初めてグリーンジャケットに袖を通した松山英樹もまたその一部である。

 その年、秋に日本で行われたZOZOチャンピオンシップも制した松山は、翌2022年1月にハワイで行われたソニーオープンでも優勝した。ところが、2月25日に30歳の誕生日を迎えた頃から、将来をも揺るがす困難に直面した。試合がなかった期間に痛みを覚えた首の故障が深刻化し、万全とは程遠い状態で臨む試合が続いた。

 PGAツアー本格参戦から10年目の2023年、シーズンを通じてタイトルから見離され、トップ10入りもわずか2回に留まった。年間ポイントレース(フェデックスカップ)の低迷により、現役選手としては最長だった、上位30人の選手によるシーズン最終戦・ツアー選手権への連続出場も9年で途切れた。「もう、勝てないかもしれない」。キャリアのターニングポイントを感じ始めたのは、何も周囲だけではない。松山本人もまた同じだった。

 「もう一回、ちゃんと作っていかなければならない」。戦うための技術も、身も心も。

 再起をかけて臨んだ2024年シーズン。松山は自身にとって6試合目のジェネシス招待で復活優勝を飾った。前のシーズンの暗闇が濃かった分、2年ぶりの勝利には自身にはもちろん、彼を支えるチームスタッフたちにも余計に明るい光が注がれた。

 サンデーバックナインに向かった時、首位とは5ストロークの差があった。10番ホールをきっかけにした3連続バーディで戦況が変わる。バッグを担ぐ早藤将太キャディは13番を終えて「行けるかもしれない」と予感した。トップに並んでから再加速。15番、16番、17番と立て続けにショットがピンに絡み、またしても3連続バーディを奪って、ゴールテープを切った。

 鮮やかな逆転劇。「松山さんを見る限り、簡単にプレーしていた感じすらしたので、他の選手も同じようにスコアを伸ばしてくると思っていたんです。だから、『バーディを取れるだけ取ってくれ』と願っていました。でも、後から録画を見ましたけど…やっぱりリビエラCCは難しい(笑)。『世界ランク1ケタの選手でもこんなに慌てるのか』…と感じました」。改めて松山のスキル、試合運びに感嘆した早藤キャディだったが、ツアー通算9勝目は「間違いなく“チーム”にとっても良かった」とその価値の大きさに頷く。

 年が明けてからも、松山の成績は必ずしも復調を予感させるものではなかった。予選落ちこそなかったが、好スコアが続かず優勝争いは遠くにあった。だからこそロサンゼルスでの快進撃は突然変異のようにも見える。

 だが、彼に近いスタッフ一人ひとりは、前年よりも松山のフィジカルの状態が目に見えて改善され、練習に打ち込めていることを実感していた。

 そのときのチームの姿を、心の拠り所にしていたのは本人に他ならない。「去年の秋口に休みを取ってから、自分にもう一回スイッチが入った。『本当に勝ちたい』という気持ちになった。それでも良い結果に繋がらず、僕が落ち込んでいるときも、皆が『また次、次だ』とプラスに持ち込もうとしてくれる感じがありました」

 ゴルフは無論、ひとりでライバルたちを相手にする競技だが、トップアスリートが集う環境ではまさにチームスポーツの側面も持つ。キャディに留まらず、身体のメンテナンスを担当するトレーナーやマネジャー、クラブメーカーの担当者、海外で戦う松山にとっては通訳も欠かせない存在である。

 昨年から本格的にツアーに帯同した黒宮幹仁コーチは松山と同い年で、学生時代は世代を率いたトップアマチュアだった。ジュニアからツアープレーヤーを指導してきた経験と、スイングメカニズム等の知識をベースにして、技術向上の共同作業に取り組んでいる。ツアー会場では練習中、2人が事あるごとに会話を重ねる姿が見て取れる。

「一番大変なのは松山プロなんだということを忘れてはいけないと思うんです。PGAツアーのすごい雰囲気の中で、ギャラリーに常に良いショットを期待されながら、彼はボールを打つ。そんな彼を守るために、周りはベストを尽くさないといけない」(同コーチ)

 プロゴルファー個々が持ちうる常人離れした感覚と、数値データ等の客観的事実とを擦り合わせる試行錯誤には終わりがない。時に意見がぶつかり合うことがあっても、大きな目標さえ合致していれば、それは実のある議論だ。

 問題解決のためには独立した個々が、それぞれプロフェッショナルである必要がある。顧客のニーズを共有し、都度最適なテクノロジーを駆使しながら、優れた成果を届けることで社会に貢献する。時流を読みながら、高次元で先進的な提言を行う姿勢はゴルフの世界に限らず、NTTデータの姿とも重なり合う。

 多くの人が待ち望んだカムバックに成功しても、チームの、松山の旅には続きがある。「僕もまだまだ成長しなくてはいけないし、(サポートメンバー)個人がそれぞれ、成長しないといけないと皆が感じていると思う。皆が僕が勝つという目標、良い結果を出すこと一つにフォーカスしている」

 3年ぶりのメジャー制覇という大きな挑戦が待つシーズン。信頼を寄せる仲間たちがいるから、戦える。