HIDEKI MATSUYAMA Sponsored byNTT DATA
Column
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#06

2023.1.27

未来へのレッスン 松山英樹が伝えたい「世界への挑戦」に必要なこと

 4歳で本格的にゴルフを始めた松山英樹は、小学生時代にプロゴルファーのレジェンドに出会った。故郷・愛媛県内のとあるゴルフ場を、オフシーズンの練習がてら訪れていたのは、その十数年前、日本人選手として初めてPGAツアーで優勝した青木功だった。

 まだ小柄だったゴルフ少年は、青木のボールを打つ姿を食い入るように見つめ、プレー中はそばをくっついて歩く機会に恵まれたという。あのとき目に焼き付けた、巧みなウェッジショットは今も松山の記憶に鮮明に残っていて、その後、青木の背中を追うように世界に挑戦したキャリアを思えば、巡りあわせは運命的でもある。

「スーパースター」と呼ばれる存在を、目の前にしたときの子どもたちの胸の高鳴りは想像に難くない。時を経て、松山はあの頃の自分のように若く、瑞々しいハートを刺激する側になって、新しい出会いを創造した。

 2022年12月17日(土)。東京都内のゴルフ練習場で、NTTデータの主催で開かれた「Be Global, Be Challenge」は、未来を担う子どもたちに向けたイベント。
4大メジャー制覇という大きな目標に向かって、日々研鑽を積む松山のひたむきな姿勢に共感し、企画された。
「目標に向かって挑戦し続けることの大切さ」をメインテーマに、全国から集まった中高生男女を相手に、NTTデータ 代表取締役副社長執行役員・西畑一宏による講演や参加型セッションとともに、プロゴルファーとして培ってきた経験から思いを伝えた。

松山本人にとっても、公の場で子どもたちをレッスンする初めての機会。その内容は“特別”と言っていい。マスターズチャンピオンが参加した22人のジュニア、一人ひとりを打席でマンツーマン指導。実際にボールを打ち、直接対話する時間が設けられた。

 集まった子どもたちが緊張感を漂わせるのも無理はない。だが、彼ら、彼女らと顔と顔を合わせた松山のレッスンは、一方的に教えを授けるものではなく、互いが言葉と意思を交わす時間になった。

「飛距離が出ないんです」
「緊張した場面でうまくいかないんです」
「アプローチでスピンが入りません」

 もっと、うまくなりたい。その一心で、子どもたちがぶつけてくる質問に対し、松山は必ずや、一度言葉を“投げ返した”。

「どうして、うまく行かないと思う?」

世界最高峰のPGAツアーで約10年にわたってプレーしてきた実績や知見から言えば、子どもたちのスイング、動作を見ればすぐに、それなりの解は頭ではじき出しているはずである。だが、各選手と向き合う短い時間の中で、本当に伝えるべきことは即効性のあるワンポイントアドバイスではない。「“自分で考える”ことを頑張ってほしい」と言うのである。

 打席で向き合ったあるジュニアから、両手ではなく“片手打ち”をするショット練習の意味を問われ、松山はこう答えた。「自分も『(上手な選手が)なぜやっているんだろう?』と思ってやってみると、右手の役割と左手の役割をはっきりさせる意味があった。続けていると、ショットはもちろん、自然とアプローチも良くなったんだ」

 アイアンで力強い球を打ちたいという高校1年生の女子ゴルファー。彼女の構えを見て、松山は聞いた。「今すぐに良い結果を出したい? それとも時間がかかってもいいから直したい?」。時間がかかってもいいです――という答えに、「じゃあ、こう直そう」と、頭に描く目標に合わせたアドバイスを送った。

 あるいは、ドライバーショットの乱れに悩む大柄の中学生男子への助言も独特。300ヤードを超えるであろう豪快なスイングを眺め、「今すぐ直さなくていいと思う。小さくまとまってほしくない」と年齢を考慮して、長所をさらに伸ばすよう勧めた。

かねて松山は一般的にメディアを通じた、画一的な指導を好まない。人の顔が皆同じでないように、ゴルファーも世代や性別、体格や運動能力、そして考え方も、目指すものも違う。だからせめて、イベントでは子どもたちの目線に立って、それぞれが抱えている問題点と真摯に向き合うことを大切にした。

 「世界へ挑戦し続けることの大切さ」を伝えることをモットーにしたイベントは、トークショーに差し掛かり、話はマスターズ優勝時の心境、米国での転戦生活についても及んだ。

言葉も文化も違う異国の地で、恐怖心や孤独感と付き合いながら挑戦を続けるためには「思いを叶えたいという気持ちをずっと持ち続けること」が欠かせない。その熱意に支えられた日々の準備は、つとめて冷静な状況分析や現状把握があってこそである。

 「自分が今、何に取り組んでいるか。やるべきことに対して、その都度、練習の内容も変わってきます。例えばストレッチひとつとってもいろんなやり方がある。今だったらスイングにしても、携帯電話ひとつでいろんなものを見られる。ただ、数ある情報を鵜呑みにするのではなく、それがなぜ自分に必要かを考えて、実際にやることが大事だと思います。きょう僕が話したことも、鵜呑みにしなくていい。なぜこういわれたのか、と考えてほしい」

10年に及ぶプロアスリート生活で、松山自身が誇れるものは、大好きなゴルフに全身全霊をかけて力を注いできたこと、等身大で向き合ってきた姿勢に尽きる。「どんな分野でも、ゴルフでなくても考え続けることは必要だと思う」。マスターズチャンピオンが将来を担う世代に心から伝えたかったのは、必ずしもボールの打ち方だけではなかった。